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東京地方裁判所 昭和27年(行)158号 判決 1953年5月06日

東京都世田ケ谷区松原町二丁目七百五十八番地

原告

東京部品工業株式会社

右代表者清算人

矢部善夫

右訴訟代理人弁護士

堂野達也

東京都千代田区代官町二番地

被告

関東信越国税局長大槻義公

右指定代理人

杉本良吉

泉山信一郎

中野政次郎

宮内裕

右当事者間の昭和二十七年(行)第一五八号審査決定取消請求事件について、当裁判所は次の通り判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十七年八月十五日付関局調査一-一八七通知書を以て、原告に対してなした審査決定を取消す。」旨の判決を求めると申立て、請求の原因として、

「原告は自転車用チエーン等の製造、販売等を営んで居たが、昭和二十五年六月五日解散し、同日清算人に矢部善夫が就任したので、その旨を同年同月二十一日訴外浦和税務署長に通知し、同年同月二十一日、二十三日、二十六日の三回に亘つて官報を以て公告した。

原告は昭和二十五年一月二十三日から同年三月末迄被告より査察を受けて居たのであるが、訴外浦和税務署長は昭和二十五年八月十一日原告が昭和二十五年分法人税九百四十九万二千六百二円取引高税十五万七千円、源泉徴収所得税六百五十一万四千二百三十二円を滞納して居ると称して原告に対して滞納処分をした。けれども原告には右法人税課税を受ける所得なく、又取引高税課税を受ける取引もない。源泉徴収所得税についても右に相当する給与その他の支払をしたこともなく、これは原告会社取締役の一人である訴外東出寅吉が他の者と共同して原告の営業とは別に原告と同種の事業を営んだ取引関係を原告の取引と混同誤認したことによるものであるのみならず、右諸税を賦課、徴収するには税務署その他徴税担当行政庁において課税標準、税額を更正又は決定してこれを原告に通知し、又納税告知書を以て納付命令を原告に通知しなければならぬものであるが、右昭和二十五年分法人税等については如何なる更正決定通知も、納税告知通知も原告に対してなされていないのである。そこで原告は該滞納処分の前提として当然その存在を予想される浦和税務署長の原告に対する右法人税等の賦課処分並に納付命令について、昭和二十七年五月二十七日被告に対して審査請求をなしたが、被告は昭和二十七年八月十五日付関局調査一-一八七通知書を以て、原告の右審査請求は期間経過後になされた不適法なものであるからこれを却下する旨通知し来たり、原告は該通知書を同年同月二十三日受領した。

しかしながら上述したところに明なように、原告に対する課税標準、税額の決定又は更正も、納付命令(納税告知書)も全く通知はないのであるから右通知を俟つて進行する審査請求期間が満了する筈もないのに、被告の上叙審査決定はこれを看過し、慢然と原告の右審査請求が審査請求期間経過後になされたものとしてこれを却下したものであるから違法たるを免れない。よつて被告のなした審査決定の取消を求める。」と述べ、

被告の主張に対し、

「被告主張事実中、原告の代表取締役が栗橋竹治、東出寅吉と変遷したこと、原告の清算人矢部善夫が昭和二十五年八月十日頃納税計画書を提出して税金分納の申請をなした事実は認めるが、その余の事実は争う。

右納税計画書を提出したのは原告において被告主張の更正決定通知書、納税告知書を受領したからではなく、関東信越国税局調査査察部長より原告宛の査察による増差税額についての納税計画書の提出を命ずる書面が原告に到達したことと、原告が査察を受けて居た関係上係官の感情を害しない為に、関東信越国税局査察官中野政次郎に電話で問合せて、増差税額を知りそれに基いた納税計画書を作成したのである。納税計画書の基礎である増差税額は別表(二)記載の通りであり、被告の主張額と差異があるのは右の事情に基くものである。」と述べた。

被告指定代理人は請求棄却の判決を求め、

「原告主張事実中、原告がその主張の如き営業をなして居たが、昭和二十五年六月五日解散し、同日矢部善夫が清算人に就任したこと、原告主張の通りに浦和税務署長に対する通知並びに公告があつたこと、被告が昭和二十五年一月二十三日より同年三月二十八日迄原告に対し脱税容疑により査察をなしたこと、昭和二十五年八月十一日浦和税務署長が原告主張の通りに滞納処分をなしたこと、原告が昭和二十五年五月二十七日付を以て被告に対し審査請求をなしたこと、及び被告が原告主張の通りの審査請求却下決定をなし、その通知書が昭和二十七年八月二十三日原告に到達したことはいづれも認めるが、その余の事実は争う。」と答え、

「被告は昭和二十五年六月二十八日前記査察の結果に基き、原告に対する法人税等を別表(一)記載の通りに更正することを決定してこれを浦和税務署長に通知し、浦和税務署長は右通知に従い原告の法人税等を別表(一)記載の通りに更正(昭和二十五年分)し、翌二十九日原告社長栗橋竹治宛の更正決定通知書並びに納税告知書を、係員をして埼玉県北足立郡大和町大字白子百二十番地所在の原告会社に持参させたが文書を受取るべきものが居なかつたので、更に翌三十日解散当時の社長である東出寅吉方に右更正決定通知書並びに納税告知書を持参せしめた処、東出寅吉は異議なくこれを受領し、その後数日を出でずして右文書を清算人矢部善夫に交付したものである。元来原告会社については創立以来代表取締役は栗橋竹治であつたが昭和二十五年五月十一日以降東出寅吉において代表取締役となり同年六月五日解散の結果矢部善夫が清算人となつたものであり、然して右文書の名宛人原告の代表者の表示としては清算人矢部善夫でなく、前社長栗橋竹治になつて居るが、右文書の記載自体からして、浦和税務署長の真意が原告の代表者に対して原告の法人税等についての処分を通知するにあることは明らかであるから、代表者氏名の表示に右の如き誤りがあつても、原告に対する通知として有効であると云わなくてはならない。

仮に右主張が認められないとしても、原告の清算人矢部善夫は昭和二十五年八月十日頃右更正決定、並びに納税告知税額を基礎とする納税計画書を提出して分納の申請をなして居るのであるから、清算人矢部善夫は右更正決定通知書並びに納税告知書の送達について暗默の追認をなしたものと言うべきである。

然るに原告は昭和二十七年五月二十七日に至つて始めて被告に対して審査請求をなしたものであるから、該審査請求は審査請求期間(通知を受けた日から一ケ月)経過後になされた不適法のものである。よつて原告の右審査請求を却下した被告の本件審査決定には何等の違法もない。」と主張した。

理由

原告の主張によれば、浦和税務署長は昭和二十五年八月十一日原告が別表(一)記載の内容の昭和二十五年分法人税、取引高税、源泉徴収所得税を滞納して居るとしてその徴収の為に原告に対し滞納処分を執行したので、原告は右の如き更正決定通知書、納税告知書の交付を受けて居なかつたが、右滞納処分の前提として当然浦和税務署長がなしたものと予想される右の如き内容の更正処分並びに納付命令について被告に対し審査請求をなしたと言うことになるわけであるが、審査請求が適法であるためには、少くとも原処分が存在することが前提となるものであるところ、法人税法第三十二条、取引高税法第二十条には、行政庁において課税標準並びに税額を更正した場合は、その旨を義務者に通知すべきことが規定され、又会計法第六条によれば租税の徴収には債務者に対する納入の告知をしなければならないことが定められて居ることから見ても、本件の場合において取消申立の対象となる処分があると言うためには原告に対する各処分の通知があつたことを要するものと解するのを相当する。(単に徴税担当行政庁の内部意思決定のみで処分の効力は発生しなくとも成立は認められると考える考え方もあるであろうが、取消申立の対象としてはその内部決定が当該行政庁の決定として外部に表示されたときにその処分ありと解すべきであろう。)然るに原告の主張によれば前記更正並びに納付命令は何等原告に通知されて居ないと言うのであるから原告の主張からすれば、右更正処分並びに納付命令そのものが存在しないと言うことにならざるを得ない。

して見れば原告の主張自体からして原告のなした右審査請求は不適法なものであり、理由こそ異なれ、被告が原告のなした右審査請求を不適法として却下した審査決定は適法なものであると言わなければならないことになる。

よつて原告の本訴請求は、それ自体においてすでに理由なきものであるから、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 毛利野富治郎 裁判官 桑原正憲 裁判官 山田尚)

別表(一)

法人税

(イ) 自昭和二十三年一月一日至昭和二十三年六月三十日

所得金額 五百三十万九千八百三十九円

増差税額 二百三十八万四千一百七十一円

(ロ) 自昭和二十三年七月一日至昭和二十三年十二月三十一日

所得金額 五百八万四百七十五円

増差税額 二百六十七万二千九百七十四円

加算税 九十一万三千八百二十四円

(ハ) 自昭和二十四年一月一日至昭和二十四年六月三十日

増差税額 百六十万六千八百三円

加算税 二十五万三千七百四十八円

追徴税 四十一万四千二百五十円

取引高税

(イ) 自昭和二十三年九月一日至昭和二十四年四月三十日

(旧取引高税によるもの)

取引高金額 一千九百十五万五千七百二十四円

増差税額 九万一千六百七十円

(ロ) 自昭和二十四年五月一日至昭和二十四年十二月三十一日

(新取引高税によるもの)

取引高金額 六百五十八万六千三百七円

増差税額 五千九百七十円

(ハ) 追徴税 二万四千三百九十円

(ニ) 加算税 三万五千七十円

源泉所得税

(イ) 自昭和二十三年一月一日至昭和二十三年十二月三十一日

所得金額 六百八十二万三千一百九十六円

増差税額 百八十七万四千六百四十円

(ロ) 自昭和二十四年一月一日至昭和二十四年十二月三十一日

所得金額 八百五十七万五千五百九十三円

増差税額 二百二十四万八千六百八十七円

(ハ) 追徴税 百三万二千七百五十円

(ニ) 加算税 百三十六万一千六百五十五円

別表(二)

法人税

昭和二十三年度上期分

税額 二百三十八万四千一百七十一円

加算税額 百二十四万六千八百三十二円

昭和二十三年度下期分

税額 二百六十七万二千九百七十四円

加算税額 九十一万三千八百二十四円

昭和二十四年度上期分

税額 百六十万六千八百三円

加算税額 二十五万三千七百四十八円

追徴税額 四十一万四千二百五十円

取引高税

自昭和二十三年九月至昭和二十四年十二月

税額 十二万二千三十円

源泉所得税

自昭和二十三年一月至昭和二十四年十二月

税額 四百十二万三千三百二十七円

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